秒速5センチメートルのアニメ版を刀だとしたら、実写版は鞘

実写版秒速5センチメートル を映画館で見てきました。

本記事にはネタバレを含みます。

まず感想として、タイトルにもありますが、

香月 香月
アニメ版を刀だとしたら、実写版は鞘

に集約します。

アニメ秒速5センチメートルと日々弾力を失っていく心

20年前、秒速5センチメートルを見た人々が皆傷つき、なんとも言えない後味の悪さ、苦さのようなものを 噛み締めたと思います。 もう20年前です。私はこのアニメ映画を何度見たかわかりません。10回以上は見ていると思いますが、 それは20年前に10回見たわけではなく、この20年の間のなにかのふとした時に見ていたということです。

アニメ秒速5センチメートルは不思議な映画です。 まずセカイ系を描いていた新海誠監督が、現実的な話を書いたという驚き。 そしてそれが、男の未練たらたらの、でもリアルな、胸が苦しくなるような現実感、 セリフがすべてポエムという気持ち悪さと圧倒的に幻想的できれいな絵。 そういうもので構築されていました。

いつの間にか流れ始めた One more time, One more chance の歌詞ともマッチして、 なんとも言えない独特の映画となっています。

こんなことは今更私が言うまでもないでしょう。

その瞬間まで、僕は実写化するなんて可能性を考えもしなかった

実写版の話をYouTubeで見たとき、まず見に行くかどうか悩みました。

秒速5センチメートルは言うまでもなく私にとって重要な映画です。 なかった青春を思い出して傷つくという記帳な経験ができるのはこの映画くらいでしょう。

アニメや漫画の実写化というのは、過去に散々駄作を生み出してきましたが、 近年の実写化はだいぶ良くなっているような気がします。

予告映像を見るに、きれいな風景に原作リスペクトを感じはしましたが、 音楽担当に山崎まさよしがいないことが不安でした。

やはり One more time, One more chance が流れない秒速は秒速ではないように思いました。 「耳をすませば」の実写版で音楽が「翼をください」になっていたように、 こういう改変はファンとして全くうれしくなく、むしろ許しがたいことです。

しかし、数日後、山崎まさよしが劇中歌で関わることが発表されました!

この発表を見て、見に行くことを決めました。

時間ははっきりした悪意を持って、僕の上をゆっくりと流れていった

実写映画を見に行きました。公開初日、仕事が終わったあと、 18:00 頃。

映画が始まってしばらくは、やや退屈に感じました。 予告で見たようなきれいな映像もなく、都会のビルやオフィスの光景が続きました。

そう、実写版はアニメ版で言うところの3話時点から始まるのです。 これはなんとなく視聴前に予想していたことでした。

しかし、私はこの若干退屈な映像に、やや安心感を覚えていました。 退屈な邦画ほど心の落ち着くものはありません。

なんならこのまま帰ってしまいたいくらいでした。

明里、どうか、もう家に帰って行ってくれればいいのに。

なかばぼんやりと映像を見ていて、ふと目に飛び込んできたのは 「月とキャベツ」 でした。

香月 香月
まさかの『月とキャベツ』!?

皆様、ご存知でしょうか?

山崎まさよしが主演をつとめた映画があったことを。

それが「月とキャベツ」です。

もともと One more time, One more chance は「月とキャベツ」の主題歌でした。 映画以上にヒットしたこの曲は、その後アニメ秒速5センチメートルで起用されて更に有名になることになりますが、 秒速の前からもともとだいぶ有名でした。

その「月とキャベツ」が劇中に出てくるのです! 登場人物が「月とキャベツ」のパッケージを持って、DVDレンタルショップでレンタルするのです!

こんな小ネタを挟んでくるとは予想外で、ジャブで打たれた気分でした。 なかなか粋な山崎まさよしファンサービスをしてくれるじゃありませんか。

時速5キロなんだって。南種子の打ち上げ場まで。

さて、映画はゆっくりと進んでいきます。

ストーリーは、3話から2話へ遡るように展開していきます。 アニメに出てくる主要な登場人物(そしてチラッと出てきただけのモトカノとかも)たちが出揃ってきます。

序盤は特に、アニメ版を見ていない人には、正直まったく意味不明な映画だと思います。 しかし中盤、種子島あたりの話になる頃には話しに引き込まれていました。

このへんで気づき始めますが、この映画はアニメ版と同じシーンがちらほらある割には、 そのシーンのセリフは全然違います。

そう、アニメ版のセリフを極力出さないようにしているのです。

実写版はアニメ版には出てこなかったセリフ、心情の説明がありますが、 アニメ版にあるセリフは出てこない。

香月 香月
陰と陽。ネガとポジ。刀と鞘。

その夢の中では僕たちはまだ十三歳で、

この実写版映画は完全に原作のアニメ版を見たことがある人向けに作ってあります。

多くの場合、実写映画は原作を再現するような感じが多いと思いますが、 この映画は原作の再現はしていないのです。 むしろ、2次創作的な感じでしょうか。

原作のシーンであえて伏せてあったものを逆に公にして、 原作にあるものは隠す。

これはなかなか他で見ないアプローチであるように思います。

この独特のアプローチのため、アニメ版を見たことがある人は 実写版を見てるときも、登場人物の喋っていないセリフが聞こえてきます。

特に電車が雪で止まっているシーンで原作のセリフが一切出てこないのには驚きました。 出てこないにもかかわらず、私には遠野くんの心情のアニメのセリフが聞こえてきました。

今振り返れば、きっとあの人も振り返ると強く感じた

映画の見どころとか、いいシーンとか、そういう話は別の方に任せます。

まず、予想していたシーンは見れると思いますし、それ以上のものもあります。

実写版について批判をするのは簡単でしょう。 「俺の解釈と違う」といって管を巻くのも自由だと思います。

香月 香月
しかし、私はポジティブに捉えたい。

アニメ秒速5センチメートルというコアなファンが多い映画に対して、20年ぶりに新解釈を加えるという挑戦。 非常に大きな挑戦だと思います。

もっと無難に原作の絵を再現するだけの映像を作ることだってできた中で、 それぞれの登場人物たちを更に掘り下げ、新しい視点で 秒速5センチメートルを再構築した。

偉業だと思います。

遠野貴樹のことを私は昔からの友人のように感じられるようになりました。 彼の人生が続いていくことを描いてくれたように思います。

香月 香月
ありがとう

皆も見に行ってね

(追記) API納品

プログラマ向けに一言。

API納品のシーンはありません。

代わりに『マスタリングTCP/IP』が出てきます。

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